ホライズン法律事務所 代表弁護士
東京弁護士会所属
更新日:2025.08.08
離婚時に子どもの将来を守るために欠かせないのが養育費の取り決めです。しかし、厚生労働省の調査によると母子家庭の約72%が養育費を受け取れていないという深刻な現状があります。この記事では、離婚前の適切な話し合いと公正証書の作成により、養育費を確実に受け取るための具体的な方法を解説します。
養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでに必要な生活費、教育費、医療費などを指します。離婚という大きな決断を前に、感情的になってしまいがちですが、子どもの将来のためには、冷静に養育費について話し合うことが何より大切です。ここでは、なぜ離婚前の話し合いが重要なのか、そして具体的に何を決めておくべきなのかを詳しく解説していきます。
養育費の話し合いを離婚前に行うことは、子どもの生活を守る上で極めて重要です。残念ながら、日本では養育費の未払いが深刻な社会問題となっており、多くのひとり親家庭が経済的困難に直面しています。
養育費の未払いが多い現実
令和3年度の厚生労働省の調査によると、母子家庭で現在も養育費を受け取っている割合はわずか28.1%、父子家庭では8.7%という厳しい現実があります。つまり、母子家庭の約7割が養育費を受け取れていない状況です。さらに、過去に養育費を受けたことがあるが現在は受けていないという母子家庭も14.2%存在し、離婚当初は支払われていても、時間の経過とともに支払いが滞るケースが多いことが分かります。
養育費の取決めをしない理由
養育費の取り決めをしていない理由を見ると、「相手と関わりたくない」が31.4%、「相手に支払う能力がないと思った」が20.8%、「相手に支払う意思がないと思った」が17.8%となっています。しかし、これらの理由で養育費の話し合いを避けてしまうと、結果的に子どもが経済的な不利益を被ることになってしまいます。
離婚後の交渉の困難さと、事前合意のメリット
離婚前であれば、まだ夫婦としての関係が法的に存続しているため、話し合いの機会を設けやすい環境にあります。しかし、いったん離婚が成立してしまうと、相手と連絡を取ること自体が困難になるケースが多く見られます。新しい生活を始めた相手が連絡に応じなくなったり、引っ越しにより所在が分からなくなったりすることもあります。
また、離婚後に養育費の話し合いを持ちかけても、「もう関係ない」「新しい家庭があるから」といった理由で拒否されることも少なくありません。離婚前に養育費について合意し、それを公正証書などの法的効力のある文書に残しておくことで、将来的なトラブルを防ぎ、子どもの生活を守ることができます。
さらに、事前に合意をしておくことで、支払う側にも「養育費は当然の義務である」という意識が根付きやすくなります。養育費は、親が子どもに対して負う生活保持義務に基づくもので、自分の生活を切り詰めてでも子どもに同程度の生活をさせる義務があることを、離婚前にしっかりと確認しておくことが重要です。
養育費の話し合いでは、「養育費を払う」という漠然とした約束ではなく、具体的かつ詳細な取り決めをすることが大切です。曖昧な約束は後々のトラブルの原因となりますので、以下の項目について明確に決めておきましょう。
離婚前に決めておくべき養育費の項目┃金額、支払期間、支払い日
養育費の金額は、両親の収入、子どもの人数や年齢を考慮して決定します。裁判所が公表している「養育費算定表」で標準的な金額を把握できますが、これはあくまで目安です。子どもの教育方針や生活水準、持病などの特別な事情に応じて、個別に調整することも可能です。
支払期間については、「子どもが満20歳に達する月まで」や「大学を卒業する22歳の3月まで」など、明確に終期を定めることが重要です。「成人するまで」といった曖昧な表現は避け、具体的な年月を記載しましょう。また、支払い日も「毎月末日」「毎月25日」など、具体的に定めておくことで、支払いの遅延を防ぐことができます。
離婚前に決めておくべき養育費の項目┃銀行振込などの支払方法
養育費の支払方法は、銀行振込が一般的です。現金の手渡しは、支払いの証拠が残りにくく、トラブルの原因となりやすいため避けるべきです。振込先の口座情報(銀行名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義)を明確に記載し、振込手数料の負担についても取り決めておきましょう。
また、支払いが確実に行われているかを確認できるよう、通帳記帳や振込明細の保管についても話し合っておくことをお勧めします。最近では、養育費の支払い状況を管理するアプリなども登場していますので、そういったツールの活用も検討してみてください。
離婚前に決めておくべき養育費の項目┃教育費や医療費などの臨時支出の扱い
子どもの成長に伴い、通常の養育費では賄いきれない臨時の支出が発生することがあります。例えば、高校や大学の入学金、塾や習い事の費用、大きな病気やケガの治療費などです。これらの臨時支出について、どのように負担するかを事前に決めておくことが大切です。
一般的には、「高額な教育費や医療費が発生した場合は、別途協議する」という条項を設けることが多いです。ただし、「高額」の基準を明確にしておかないと、後でもめる原因となりますので、「10万円を超える支出については別途協議」など、具体的な金額を定めておくことをお勧めします。
また、進学に関しては、私立学校への進学を希望する場合の学費負担、大学進学時の費用負担など、将来予想される支出についても、可能な限り話し合っておくことが重要です。子どもの教育方針について、離婚後も両親が協力して支えていくという姿勢を確認し合うことが、子どもの健全な成長につながります。
しかし、どんなに詳細に養育費を取り決めても、それが口約束だけでは将来の不安は残ります。次章では、養育費の支払いを法的に保証し、万が一の不払いにも対応できる「公正証書」について、その重要性と作成のメリットを詳しく解説していきます。
養育費の取り決めを口約束だけで済ませてしまうと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。そこで重要になるのが「公正証書」の作成です。公正証書は、養育費の支払いを法的に保証する強力な武器となります。ここでは、なぜ公正証書が必要なのか、そして作成する際の注意点について詳しく解説していきます。
公正証書は、法律の専門家である公証人が作成する公的な文書です。単なる私文書とは異なり、高い証明力と法的効力を持っています。養育費に関する公正証書を作成することで、将来の不払いリスクを大幅に軽減することができます。
養育費の取決めを口約束や書面で交わした場合と公正証書にした場合との違い
離婚時の養育費の取り決めは、大きく分けて以下の5つのケースがあります。
1. 口約束のみ
2. メールやLINEなどでの約束
3. 当事者間で作成した書面(離婚協議書など)
4. 公正証書
5. 家庭裁判所での調停・審判
このうち、口約束は最も証明力が弱く、「言った、言わない」の水掛け論になりやすいため避けるべきです。当事者間で作成した書面も、一定の証明力はありますが、相手が支払いを拒否した場合には、改めて裁判所に訴訟を提起する必要があります。裁判所への出頭、尋問手続への対応など、費用・労力等の点で負担になることのほか、養育費の取り決めを証明できない場合には、遡っての請求が認められないということも想定しておく必要があるでしょう。メールやLINEについては、離婚協議書よりも証拠能力としては弱くなります。
一方、公正証書は公証人という法律の専門家が関与して作成されるため、その内容の真正性が強く推定されます。また、公証役場で原本が20年間保管されるため、紛失の心配もありません。さらに、「強制執行認諾文言」を付けることで、不払いが発生した際に裁判を経ることなく、直ちに強制執行手続きに移行できる点が最大のメリットです。
養育費の取決めを公正証書にしておくことで、強制執行も可能に
強制執行認諾文言付きの公正証書があれば、養育費が支払われなくなった場合、相手の給与や預貯金、不動産などの財産を差し押さえることができます。特に給与の差し押さえは効果的で、相手の勤務先から直接養育費を受け取ることが可能になります。
通常、金銭債権の強制執行では給与の4分の1までしか差し押さえられませんが、養育費については特別に、給与の2分の1まで差し押さえることができます。また、一度強制執行の手続きを行えば、将来の養育費についても継続的に差し押さえることができるため、毎月確実に養育費を受け取ることが可能になります。
2019年の民事執行法改正により、裁判所を通じて相手の勤務先や預貯金口座の情報を調査できる「第三者からの情報取得手続」が新設されました。これにより、相手の財産が不明な場合でも、強制執行の実効性が高まっています。
公正証書は、養育費未払い時の「心理的圧力」としても有効
公正証書の存在は、支払義務者に対する心理的な圧力としても機能します。公証役場という公的機関で、公証人の前で約束したという事実は、相手に「守らなければならない約束」という意識を強く植え付けます。
また、強制執行認諾文言があることで、「支払わなければ給与を差し押さえられる」という現実的なリスクを相手に認識させることができます。これにより、自主的な支払いを促す効果が期待できます。実際、公正証書を作成している場合の養育費受給率は、作成していない場合と比較して高いという調査結果も出ています。
公正証書は強力な効力を持つ文書ですが、作成の際には細心の注意が必要です。不適切な内容で作成してしまうと、せっかくの公正証書が機能しない可能性があります。
「強制執行認諾文言」の記載の必要性
公正証書を作成する最大の目的は、不払い時に強制執行ができることです。そのためには、必ず「強制執行認諾文言」を記載する必要があります。これは、支払いが滞った場合に裁判を経ずに直接財産を差し押さえることを認める文言のことです。
この文言は、一般的に以下のような形で記載されます。
「甲(支払義務者)は、本証書記載の金銭債務の履行をしないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」
この文言がない公正証書では、不払いが発生しても直接強制執行をすることができず、改めて裁判所で判決を得る必要があります。公証人は通常この点について説明してくれますが、念のため作成前に確認しておくことをお勧めします。
内容は具体的に定める必要があり、曖昧な表現はリスクになるため注意
公正証書で強制執行を行うためには、金額と支払い期日が明確に定められている必要があります。例えば、以下のような曖昧な表現は避けるべきです。
・「子どもの大学の授業料を支払う」(金額が不明確)
・「○○の支払いについて別途協議する」(金額・期日が未定)
・「生活に余裕があるときに増額する」(条件が不明確)
代わりに、以下のように具体的に記載します。
・「養育費として、子ども1人につき毎月5万円を支払う」
・「令和○年4月から令和○年3月まで、毎月末日限り支払う」
・「大学入学時には、入学金として50万円を別途支払う」
また、支払方法についても、振込先の銀行口座情報を正確に記載し、振込手数料の負担者も明記しておくことが重要です。後から口座を変更する場合の手続きについても定めておくと、よりスムーズな運用が可能になります。
さらに、養育費の変更に関する条項も重要です。収入の大幅な変動や再婚など、事情の変更があった場合の取り扱いについて、「著しい事情の変更があった場合は、双方協議の上、養育費の額を変更することができる」といった条項を入れておくことで、柔軟な対応が可能になります。
公正証書の重要性を理解したところで、実際にどのように作成すればよいのでしょうか。次章では、養育費の話し合いから公正証書作成までの具体的な流れと、スムーズに進めるための実務的なポイントを詳しくご紹介します。
公正証書の重要性を理解したら、次は実際の作成手続きに進みます。しかし、その前に養育費について夫婦間でしっかりと話し合い、合意を形成することが不可欠です。ここでは、話し合いをスムーズに進めるコツから、公正証書作成の具体的な流れまでを詳しく解説します。
離婚を決意した夫婦にとって、冷静に話し合いを進めることは簡単ではありません。しかし、子どもの将来のためには、感情を抑えて建設的な話し合いをすることが重要です。以下のポイントを押さえて、効果的な話し合いを心がけましょう。
冷静な話し合いのための準備
話し合いを始める前に、しっかりとした準備をすることが成功の鍵となります。まず、養育費算定表などを参考に、標準的な養育費の相場を把握しておきましょう。裁判所のウェブサイトで公開されている算定表は、双方の収入と子どもの人数・年齢から、適正な養育費の目安を知ることができます。
次に、自分と相手の収入を正確に把握することが重要です。源泉徴収票や確定申告書、給与明細などを準備し、お互いの経済状況を明確にしておきます。また、子どもの現在の生活費や教育費、今後予想される支出についても、具体的な金額をリストアップしておくと良いでしょう。
話し合いの場所と時間も重要です。自宅などでは感情的になってしまうことが想定される場合、カフェやファミリーレストランなど、人目のある落ち着いた場所を選ぶことをお勧めします。また、お互いに時間的余裕のある日を選び、急かされることなく話し合えるようにしましょう。
話し合いの際は、「子どものために」という共通の目的を常に意識することが大切です。相手を責めたり、過去の問題を蒸し返したりすることは避け、あくまでも養育費という未来に向けた話に集中しましょう。必要であれば、話し合いのルール(感情的にならない、相手の話を最後まで聞くなど)を事前に決めておくのも効果的です。
養育費の話し合いがまとまらない場合は、弁護士や支援団体を活用
当事者同士では話し合いが進まない場合や、DVなどの事情で直接会うことが困難な場合は、第三者の支援を受けることを検討しましょう。
弁護士に依頼することで、法的な観点から適切なアドバイスを受けられるだけでなく、代理人として相手との交渉を任せることもできます。特に、相手が養育費の支払いに消極的な場合や、複雑な財産関係がある場合は、専門家の力を借りることで有利に交渉を進められます。弁護士費用が心配な場合は、法テラスの民事法律扶助制度を利用することで、費用の立て替えや分割払いが可能です。
また、各地の自治体では、ひとり親家庭支援の一環として、養育費相談を実施しています。母子家庭等就業・自立支援センターや養育費相談支援センターでは、養育費の取り決めについて無料で相談できます。これらの機関では、話し合いの進め方のアドバイスや、公正証書作成のサポートも行っているケースもあるようです。
養育費について合意が形成できたら、いよいよ公正証書の作成に進みます。公正証書は公証役場で作成しますが、事前の準備から当日の手続きまで、スムーズに進めるためのポイントを解説します。
公証役場の予約と相談の進め方
公正証書の作成は、全国に約300か所ある公証役場で行います。基本的にはどこの公証役場でも作成できますが、利便性を考えて自宅や職場から近い場所を選ぶと良いでしょう。
まず、電話で公証役場に連絡し、離婚に伴う養育費の公正証書を作成したい旨を伝えます。多くの公証役場では、事前相談を受け付けているので、必要書類や手続きの流れについて確認しておきましょう。この段階で、夫婦双方が公証役場に出向く必要があることや、代理人を立てる場合の手続きについても確認しておきます。
公証人との事前相談では、養育費の取り決め内容を詳しく説明します。金額、支払期間、支払方法などの基本事項に加え、特別な取り決め(進学時の追加費用、医療費の負担など)がある場合は、その内容も伝えます。公証人は法的な観点から内容をチェックしてくれます。
ただし、公証役場では、公正証書を作成する手続き等についてはアドバイスをしてくれますが、書面に記載する内容や、トラブル解決のための相談、法律相談については対応してくれませんので、注意が必要です。
このような点は、弁護士に相談すると良いでしょう。
作成日の予約は、夫婦双方の都合を調整して行います。公証役場によっては混雑していることもあるので、余裕を持って予約することをお勧めします。また、当日都合がつかなくなった場合の変更手続きについても確認しておきましょう。
必要書類と当日の流れ
公正証書作成に必要な書類は以下のとおりです。
※一般的なものを記載しておりますので、公証役場には事前に電話等で確認しておくと良いでしょう。
必要書類一覧
・夫婦双方の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)
・夫婦双方の実印
・本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
・戸籍謄本(子どもの親子関係を証明するため)
・収入を証明する書類(源泉徴収票、確定申告書など)
・離婚協議書の案(あれば)
・委任状(代理人を立てる場合)
当日は、予約時間に夫婦双方(または代理人)が公証役場に出向きます。公証人が作成した公正証書の案を読み上げ、内容に間違いがないか確認します。この際、不明な点があれば遠慮なく質問しましょう。内容に問題がなければ、夫婦双方が署名・押印し、公正証書が完成します。
公正証書は正本、謄本の2通が作成され、通常は養育費を受け取る側が正本を、支払う側が謄本を保管します。原本は公証役場で20年間保管されるため、紛失した場合でも再発行が可能です。
公証人への説明と費用の目安
公証人に養育費の内容を説明する際は、以下の点を明確に伝えることが重要です。
1. 子どもの人数と年齢
2. 養育費の月額(子ども1人あたりの金額)
3. 支払い開始時期と終了時期
4. 支払方法(振込先口座情報)
5. 特別な費用の取り扱い(進学費用、医療費など)
6. 強制執行認諾文言を付けること
公正証書の作成手数料は、養育費の総額によって決まります。養育費は長期間にわたって支払われるため、10年分の金額を基準に手数料が計算されます。
手数料の目安
・100万円以下:5,000円
・200万円以下:7,000円
・500万円以下:11,000円
・1,000万円以下:17,000円
・3,000万円以下:23,000円
例えば、月額5万円の養育費を10年間支払う場合、総額は600万円となり、手数料は17,000円となります。このほかに、正本・謄本の作成費用として数千円程度かかります。
公証人への支払いは現金で行うことが一般的ですが、公証役場によってはクレジットカードが使える場合もあります。事前に支払方法を確認しておくと良いでしょう。また、自治体によっては公正証書作成費用の補助制度がある場合もありますので、お住まいの市区町村に問い合わせてみることをお勧めします。
公正証書を作成できたとしても、長い養育期間の中では様々な問題が発生する可能性があります。
そこで、以下に、養育費が支払われなくなった場合の対処法や、生活状況の変化による養育費の見直しなど、実際に起こりうるトラブルへの対応方法について解説します。
公正証書を作成しても、長い養育期間の中では様々なトラブルが発生する可能性があります。支払いが滞った場合の対処法や、事情の変更による養育費の見直しなど、実際に起こりうる問題への対応方法を知っておくことは、子どもの生活を守る上で非常に重要です。ここでは、トラブルへの具体的な対処法を詳しく解説します。
残念ながら、公正証書を作成していても養育費の支払いが滞るケースは少なくありません。しかし、適切な対応を取ることで、養育費の回収は十分可能です。段階的な対応方法を理解し、冷静に対処していきましょう。
履行勧告や強制執行の手続き
養育費の支払いが遅れた場合、まずは相手に直接連絡を取り、支払いを催促します。この際、感情的にならず、事務的に対応することが大切です。電話だけでなく、内容証明郵便で催促することで、法的な証拠を残すこともできます。
直接の催促で解決しない場合、公正証書による養育費の取り決めがあれば、すぐに強制執行の手続きに入ることができます。一方、家庭裁判所の調停や審判で養育費を決めた場合は、まず「履行勧告」という制度を利用できます。
履行勧告は、家庭裁判所が養育費の支払義務者に対して、支払いを促す制度です。裁判所から「支払いなさい」という勧告文書が送られることで、心理的なプレッシャーをかけることができます。
申立ては無料で、電話でも可能です。裁判所からの勧告という形で心理的プレッシャーをかけることができ、多くの場合、この段階で支払いが再開されます。
それでも支払いがない場合は、強制執行の手続きに進みます。強制執行の主な対象は以下のとおりです。
差し押さえ可能な財産
・給与(手取りの2分の1まで)
・預貯金
・不動産
・自動車
・生命保険の解約返戻金
・退職金(一部)
特に給与の差し押さえは効果的で、勤務先から直接養育費を受け取ることができます。また、養育費については、一度の手続きで将来分もまとめて差し押さえることができるため、継続的な支払いを確保できます。
強制執行の手続きは、相手の住所地を管轄する地方裁判所で行います。必要書類は以下のとおりです。
1. 強制執行申立書
2. 公正証書の正本(執行文付与されたもの)
3. 送達証明書
4. 債権差押命令申立書(給与差し押さえの場合)
5. 第三債務者(勤務先など)の資格証明書
手続き方法がわからない場合には、弁護士に依頼することで、スムーズに手続きを進めることができます。
出典:法務省「取り決めをしたが相手が支払ってくれない」
https://www.moj.go.jp/MINJI/1-2-2-1.html
養育費の未払いを防ぐには、支払い記録の確認を
養育費の支払い状況を正確に把握することは、トラブル防止の観点から非常に重要です。毎月の振込を確認し、記録を残しておくことで、未払いが発生した際の証拠となります。
具体的な管理方法としては、以下のような方法があります。
1. 専用の通帳を作る:養育費専用の口座を開設し、他の収入と分けて管理する
2. 支払い台帳を作成:エクセルなどで支払い日、金額、残高を記録
3. 振込明細の保管:通帳のコピーや振込明細書をファイリング
4. 遅延の記録:支払いが遅れた場合は、その理由と対応を記録
最近では、養育費の支払い管理アプリも登場しています。自動で入金を確認し、未払いがあれば通知してくれる機能もあるため、活用を検討してみてください。
また、相手の連絡先や勤務先が変更になった場合は、速やかに新しい情報を入手し、記録しておくことが重要です。年賀状のやり取りを続けるなど、最低限の連絡手段は確保しておくことをお勧めします。
養育費は長期間にわたって支払われるため、その間に両親や子どもの状況が変化することは珍しくありません。事情の変更があった場合の対応方法を理解しておくことで、適切な養育費の維持が可能になります。
相手の収入変化・再婚による見直し
養育費の金額は、支払い時の両親の収入や生活状況を基準に決められています。しかし、以下のような事情の変更があった場合は、養育費の増額や減額を検討する必要があります。
養育費の変更を検討すべき事情
・支払義務者の失業や大幅な収入減少
・権利者(子どもと同居する親)の収入の大幅な増加
・いずれかの親の再婚
・再婚相手との間に子どもが生まれた場合
・子どもの進学による教育費の増加
・子どもの病気による医療費の増加
・物価の大幅な変動
特に再婚については、複雑な問題を含んでいます。支払義務者が再婚しても、実子に対する扶養義務は変わりません。ただし、再婚相手との間に子どもが生まれた場合は、その子どもも扶養する必要があるため、養育費の減額が認められる可能性があります。
一方、養育費を受け取っている親が再婚した場合でも、自動的に養育費がなくなるわけではありません。再婚相手が子どもと養子縁組をした場合は、第一次的な扶養義務者が養親に移るため、養育費の減額や免除が認められることがあります。
再度の話し合いと公正証書の作り直し
事情の変更があった場合、まずは当事者間で話し合いを行います。お互いの現在の収入状況を開示し、養育費算定表を参考にしながら、適正な金額を検討します。この際も、「子どもの利益を最優先に考える」という基本姿勢を忘れないことが大切です。
話し合いで合意に至った場合は、変更内容を文書化する必要があります。公正証書で養育費を定めていた場合は、以下の方法があります。
1. 変更契約公正証書の作成:新たに変更内容のみを記載した公正証書を作成
2. 新規公正証書の作成:従前の公正証書を破棄し、新たに全体を作り直す
3. 私文書での合意書作成:簡易な変更の場合は、私文書で済ませることも可能
ただし、強制執行の効力を維持したい場合は、公正証書での変更が望ましいです。公証役場では、変更契約についても相談に応じてくれますので、事前に確認しておきましょう。
当事者間で合意に至らない場合は、家庭裁判所に「養育費増額(減額)調停」を申し立てることになります。調停では、調停委員が間に入って話し合いを進め、両者の事情を考慮した解決を図ります。調停でも合意に至らない場合は、裁判官が審判で判断することになります。
裁判所は、事情変更の程度や両親の収入状況、子どもの必要性などを総合的に考慮して判断します。単に「生活が苦しい」という理由だけでは変更は認められず、客観的に見て相当な理由が必要とされています。
養育費の問題は、子どもが成人するまでの長い期間にわたって続きます。状況の変化に応じて柔軟に対応しながら、子どもの健全な成長を支えていくことが、両親の責務といえるでしょう。
ここまで、養育費の取り決めから公正証書の作成、そしてトラブル対応まで詳しく解説してきました。最後に、これらの要点をまとめ、養育費の不安を解消するための行動指針をご説明します。
養育費を確実に受け取るためには、離婚前の準備が何より重要です。この記事で解説した以下の3つのポイントを実践することで、子どもの将来を守ることができます。
1. 離婚前に養育費を明確に取り決める
離婚前なら話し合いの機会を持ちやすく、相手の所在や収入も把握しやすい状況にあります。金額、支払期間、支払方法など、具体的で明確な取り決めをすることが大切です。
2. 公正証書を活用する
強制執行認諾文言付き公正証書を作成すれば、不払い時に裁判を経ずに給与差し押さえなどの強制執行が可能です。作成費用は5,000円~3万円程度で、将来の養育費を守るための重要な投資となります。
3. 変更・未払いに備え、定期的な見直しや専門家への相談も視野に入れる
養育費は長期間の約束です。収入変化や再婚などの事情変更には柔軟に対応し、支払い記録をきちんと管理しておくことで、トラブルを防ぐことができます。
離婚は大きな決断ですが、子どもの健やかな成長を支えることは親の責任です。一人で悩まず、必要に応じて専門家の力を借りながら、子どもの未来を守っていきましょう。
私たち、ホライズン法律事務所は、未払養育費の問題を社会課題であると捉え、この問題を解決することに注力しております。
ホライズン法律事務所の未払い養育費に関する5つの特長
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