更新日:2024.12.06
養育費は後からでも請求できるのでしょうか?当事務所にも、よくいただくご質問のひとつです。 結論からお伝えすると、後からでも養育費請求は可能です。ただし、実際に取り返すことができるか否かは、別の問題も絡み、難しいケースもあります。そこで、離婚後の養育費請求についてまとめましたので、ご参照ください。
養育費の請求は、離婚した後からの請求も可能です。
養育費は、子どもの監護や教育のために必要な費用のことをいい、離婚によって親権者でなくなった親であっても、子どもの親であることに変わりはなく、親として養育費の支払義務を負うからです。(民法第877条1項)
また、養育費に限らず、離婚後であっても、財産分与、慰謝料、過去の婚姻費用、年金分割、監護権者の指定・親権者の変更、面会交流、子の引き渡しについて請求することも可能です。(ただし、消滅時効等あり)
さらに、離婚後に事情が変更した場合、一旦決定した合意の内容を変更することができるケースもあります。
ただし、離婚時に養育費に関する取り決めをしないということはおススメできません。法律上、養育費を後から請求することは可能ですが、請求時点以前の養育費の請求が認められない可能性が高いほか、養育費の支払について、相手の同意を得られない場合には、弁護士を介した話し合いや、調停手続き・裁判手続きなどが必要になるからです。
養育費やその他重要な事項については、離婚前にきちんと話し合い、離婚協議書、できれば、公正証書などを作成しておくと良いでしょう。
養育費を支払ってもらえないケースで、裁判所を通して、相手方の財産の差押えをしたいと考えた場合、通常は、裁判などを提起し判決などを得て、その後に、相手方財産の差押えを行う手続を申し立てるという流れになります。
一方、公正証書(「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した。」 との一文を付した強制執行認諾文言付公正証書)がある場合は、判決などを得ていなくても、相手方の財産の差押えなどへ移行することができます。
公正証書を作成する費用や手間・労力が必要となりますが、ぜひ、上記の観点から公正証書にまとめておきましょう。(公正証書は、お近くの公証役場で作成することができます。)
離婚時に、「養育費はいらないから、早く離婚をしたい」と考える方は少なくありません。
また、実際に、養育費はいらないと相手に伝えてしまっているというケースもあります。
このような場合でも、後から、養育費を請求できる可能性はあります。
原則として、口約束でも契約は成立しますが、実務上、その成立を証明するものがない場合、そもそも、その約束がなかったものと扱われるケースがあるからです。
また、先ほど、少しご紹介したとおり、前提となる事情が変更した場合においても、養育費を請求できるケースがあります。
例えば、離婚時は元夫が定職についておらず収入がなかったため、養育費は請求できなかったが、離婚後、元夫が定職につき、収入があるケースなどにおいては、養育費を請求することも可能です。
また、元夫と元妻の間で、養育費を払わないと合意し、離婚協議書に記載していた場合であっても、子どもが自らの権利に基づき、扶養料を請求することも可能です。(民法第877条1項)
毎月の養育費の金額相場は、取り決めた時の事情が同じであれば、離婚前に養育費を取り決めた場合と、離婚後に養育費を請求する場合でも同じ金額になります。(子どもの年齢が15歳以上になっていたり、子どもの人数が増えている場合は、一旦考慮しないものとして考えます。)
統計的な養育費金額の相場感は、以下のようになります。
月額養育費は、全体で見ると
・母子世帯の場合50,485 円/月※
・父子世帯では 26,992 円/月※
となっています。
また、子どもの人数別で同じ統計データを確認すると次のようになります。
子ども1人の場合
・母子世帯:40,468円/月
・父子世帯:22,857円/月
子ども2人の場合
・母子世帯:57,954円/月
・父子世帯:28,777円/月
子ども3人の場合
・母子世帯:87,300円/月
・父子世帯:37,161円/月
子ども4人の場合
・母子世帯:70,503円/月
・父子世帯:ー円/月(データなし)
子ども5人の場合
・母子世帯:54,191円/月
・父子世帯:ー円/月(データなし)
であるとされています。
子どもの数が3人になるまでは、子どもの人数が増えるごとに、養育費の月額は大きくなる傾向にあります。
一方で、4人以降で減少傾向にあるのは、養育費の月額の決まり方に要因がある可能性があります。
上記の金額は、統計的な養育費の金額になります。
養育費の月額につきいくらが妥当なのかは、各家庭により異なります。
具体的には、元夫の年収、元妻の年収、子どもの人数や年齢、その他の事情などの考慮要素があります。
下記の別記事で、具体的な養育費の計算方法などを解説しておりますので、併せてご確認ください。
では、ここから、養育費を離婚後に請求する具体的な方法をご紹介します。
まず、方法としては、次の4つの方法があります。
・本人同士で、話し合いなどで請求する方法
・裁判外紛争解決手続を利用して請求する方法
・調停・審判などの裁判手続で請求する方法
・弁護士に代理人になってもらい請求する方法
全ての方法に共通しますが、離婚後の養育費請求については、元夫などの相手方が納得し、合意する必要があります(審判手続等を除く)ので、離婚前に養育費の取り決めをする場合と比較すると、合意をとりづらい傾向があります。
これは、養育費を支払ってもらえている母子家庭の割合が、わずか28.1%※しかないという実態からも明らかです。
そこで、ただ単に子どもの養育費というだけでなく、具体的な用途についてもある程度開示した方が合意が得られやすいケースがあります。具体的には、進学する際の学校の学費のために、○○円必要といった説明ができると良いでしょう。
離婚後に養育費を請求する具体的な方法は、以下で、それぞれについてもう少し詳しく解説します。
最も手軽な方法は、話し合いなどで請求する方法です。
話し合う場合には、毎月いくらの養育費を支払って欲しいのか、その根拠を事前に計算しておいた方がスムーズです。
具体的には、月額の養育費の金額、支払期日(毎月月末など)、支払方法(○○銀行○○支店への振込)、振込手数料の負担、などの条件を決めておきましょう。
また、先ほどもご紹介したとおり、なぜ、いくら必要なのかを明確に提示できるようにしておくとよいでしょう。
計算方法や、相場感等がわからない場合は、以下の記事を参考になさってみてください。
養育費は、いくら貰える?相場は?年収400万円、800万円、1000万円などケース別にも解説
また、話し合った結果については、公正証書にまとめておくと有利です。
上述の内容と重複しますが、養育費を支払ってもらえない場合で、裁判所を通して相手方の財産の差押えをしたいと考えた場合、通常は、裁判などを提起し判決などを得て、その後に、相手方財産の差押えを行うという流れになります。
一方、公正証書(「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した。」 との一文を付した強制執行認諾文言付公正証書)がある場合は、裁判手続きを経ることなく、相手の財産の差押えなどへ移行することができます。
公正証書を作成する費用や手間が追加となりますが、ぜひ、公正証書にまとめておきましょう。(公正証書は、お近くの公証役場で作成することができます。)
裁判外紛争解決手続は、裁判によらず公正中立な第三者が当事者間に入り、話し合いを通じて解決を図る手続で、ADR(Alternative(代替的) Dispute(紛争) Resolution(解決))とも呼ばれる手続きです。
裁判外紛争解決手続(ADR)のメリットとしては、
・裁判より時間がかからない
・費用が安い
・原則非公開
といったことがあげられます。
一方、裁判外紛争解決手続(ADR)のデメリットとしては
・執行力がない
・相手が応じてくれない可能性もある(この場合、そもそもこの手続きは利用できません)
といったことがあげられます。
裁判外紛争解決手続(ADR)申立ての具体的な手続きについては、その裁判外紛争解決手続を実施している事業者によって異なります。
例えば、東京弁護士会紛争解決センターが運営する養育費ADRでは次のような手順となります。
1.申立フォームに必要事項を記入し送信。
2.センター事務局で申立てを確認したら、申立人へ確認のメールを送信。
3.センター事務局から相手方に対し「養育費ADR」の申立てがあったことを通知。
※相手方への通知は、「申立フォーム」の記載内容を申立人が記載した相手方住所へ郵送。
4.相手方が、養育費のみを協議事項として「養育費ADR」で協議をすることに同意したら、
当事者双方が申立手数料(11,000円ずつ)を納付。
5.双方が申立手数料を納付した後、センター事務局において話し合いの日を調整し、実際に話し合いを行います。話合いの日時が決まったら、当事者双方に、期日手数料(1回5,500円ずつ)を納付。
6.話し合いの実施(最大3回まで)
調停とは、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、当事者同士の話し合いによって紛争を解決する手続きです。
家庭裁判所の調停委員が夫婦などの間に立会い、話し合いを行います。
養育費を調停を通して請求するメリットとしては、
・第三者を挟むことで冷静な話し合いができる
・原則、相手と顔を合わせずに済む
・調停終了後に調停調書が発行され、不払いが起きた時に「履行勧告・履行命令」「強制執行」ができる
といった点があげられます。
一方、養育費を調停を通して請求するデメリットとしては、
・決着まで時間がかかる(概ね半年ほど)
・調停を申立てるのに費用がかかる(実費のほか、弁護士に依頼した場合、弁護士費用も別途必要)
・調停は平日の昼間にしか開催されないため、仕事を休む必要があるケースもある
といった点があげられます。
調停を申し立てる場合、次のような手順となります。
1.最寄り家庭裁判所へ調停の申立てをする
インターネットもしくは、最寄り家庭裁判所で、「養育費請求調停の申立書」を入手し、記入。(相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に提出)
2.調停期日を決定
※家庭裁判所が調停の期日を決定し、申立人と相手方に調停期日呼出状が届く。
3.第1回目の調停に出席
裁判官(調停官)1名と調停委員2名が、申立人と相手方の話を聞きながら進行。
4.第2回以降の調停
概ね、月1回のペースで調停が行われ、約半年ほどの期間が必要となります。
5.調停終了
なお、調停で話が決まらない場合や、調停に相手が出席しない場合は、自動的に、「審判」という、裁判官が養育費の金額を決める手続きへと移行します。
相手方が対応しない場合であっても、一定の養育費の取決めをすることが期待できます。
最も良い方法のひとつが、弁護士に依頼する方法です。
養育費の回収を弁護士に依頼する方が良い理由は、大きく分けると次の5つです。
・最適な方法をアドバイスしてくれる
・養育費の計算など、細かな点も専門家がやってくれる
・相手方との交渉も代行してくれる
・調停や審判など裁判手続きにつき平日の昼間でも弁護士が対応してくれる
・専門家なので、安心して任せることができる
一方で、弁護士に代理人になってもらうデメリットも存在します。
それは、費用がかかることです。
基本的に、どの弁護士も、
・法律相談料
・着手金
・報酬金
の3種類の費用が必要となります。
このうち、法律相談料(相場5000円/30分)と、着手金(相場20~40万円程度)は、養育費を受け取れても、受け取れなくても必要になる性質があり、受け取れなかった場合の負担が非常に大きいため、養育費の回収をしたいという方にとっては大きなハードルになります。
なお、当事務所の場合は、養育費請求に限り特別に、相談料も着手金も無料でご依頼いただけます。(本投稿日時点)
養育費についても、消滅時効にかかってしまうケースがあります。ここではパターン分けをして解説します。
少し専門的な解説をしますと、養育費のように定期的に発生する権利は、支分権、基本権として整理されます。
支分権は支給期間ごとに実際に給付を受ける権利(毎月の権利)を指し、具体例としては、令和6年11月分の養育費支払請求権がこれにあたります。
一方、このような給付を受けることができる地位(養育費を支払ってもらうべき地位)
にあることを基本権といいます。
養育費の取り決めをしていない場合(支分権に関する論点)
・これから発生する養育費:時効で消滅することはない。
・過去に発生していた養育費:原則として請求できないが、例外的に請求できる場合がある。
消滅時効の論点とは少し異なりますが、過去分については、原則として請求できないと考えられています。
この点、養育費の支払義務を認めた裁判例と、認めない裁判例の両方をご紹介します。
支払義務を認めた判例
養育費の支払義務者の経済的余力などの状況によっては、公平に反しない限度で、過去分についても請求を認める(宮崎家庭裁判所平成4年9月1日決定など)。
支払義務を否定した判例
養育費は子どもの日々の生活に必要なお金であって、今まで請求していなかったということは、元配偶者からの養育費がなくても生活できていたはずだと考えられる(東京家庭裁判所昭和54年11月8日決定など)。
養育費の取り決めをしていない場合、速やかに養育費の請求・調停を行った方が良いといえます。
また、相手方が、過去の養育費についても支払うことに合意をすれば、取り返せる可能性があるため、チャレンジすることに価値はありますが、このような背景を考えると、このようなケースでは、早めに弁護士に相談・依頼をしておいた方が良いといえるでしょう。
公正証書や調停調書等で養育費を取り決めていた場合、通常は、支払期限が到来してから5年の経過で消滅時効にかかります。
したがって、養育費について取り決めをしているにもかかわらず、これを放置し5年経過してしまうと、支払期限が到来した月の分から1ヶ月分ずつ、養育費請求権が時効で消滅してしまいます。
相手方からの養育費が未払いとなった場合は、すぐに請求等をしていきましょう。
他方、公正証書や調停調書等で取り決める時点で未払となっている「過去分」については、10年で消滅時効を迎えます。
次に、基本権(養育費を受け取る権利そのもの)です。
養育費を受け取ることができると認識してから、10年が経過してしまうと、その後に発生する将来分の養育費を含めて、すべての養育費を受け取る権利が消滅時効にかかってしまうので、十分注意する必要があります。
では、消滅時効とならないようにするには、どうすればいいのでしょうか?この対応策は、簡単に申し上げると下記のようになります。
①裁判上の請求を行う(調停、審判、訴訟、財産開示、情報取得、強制執行等の各手続)。
②支払義務者に養育費支払義務を承認させる(未払の養育費について、支払義務者が支払いを約束したり、一部でも支払わせる)。
上記②の場合、裁判で争いになった場合には、客観証拠の提出が必要になりますので、支払約束につきLINE・メールにて残しておく、支払の事実につき通帳の取引明細を用意しておく等が考えられます。
いかがでしたでしょうか?
養育費は、後から請求することも可能ですので、ぜひ、諦めずにご相談ください。
また、まだ離婚をしていない場合には、ぜひ、養育費などの重要な事柄については、事前に取り決めをしたうえで、公正証書をご作成ください。
約72%の母子家庭が養育費の支払をしてもらえていない状況を考えると、この点は、必須と考えていただいて良いと思います。
また、養育費についても、消滅時効にかかってしまう可能性があるため、長期間経過しているような場合には、時効を更新しておく対策をとっておきましょう。
この記事でご紹介したとおり、養育費は、必ず支払われるべきものであると法律でも決められている一方で、実際に受け取れている母子家庭は、非常に少ないのが現実です。
また、実際の養育費の金額は、それぞれの家庭の事情により増減するため、専門家へ相談しないと、正しい数字は算出できないというのが実態です。
私たち、ホライズン法律事務所は、未払養育費の問題を社会課題であると捉え、この問題を解決することに注力しております。
ホライズン法律事務所の未払い養育費に関する5つの特長
当事務所は、無料でご相談いただけ、金銭的なリスク・ご負担がございませんので、ぜひ、お気軽にご相談くださいませ。